フィリピン

ASEANに関する和歌山な人:漫画でバジャウ族について伝える 大林龍矢さん vol.1

バジャウ族のイラスト
大林さん

大林龍矢さんってこんな人

1995年生まれ、和歌山県紀の川市出身
大阪芸術大学を卒業後、漫画家を目指し、
フィリピン・バジャウ族の漫画を制作したり、イラストやウォールアートなどの依頼を請けたりと、幅広く活動中。
最近は、農業や狩猟にも興味がある。
Twitter:@OT_1031

今回は、一風変わったことをしている和歌山の人がいると知り、お話を聞いてみることにしました。

舞台はフィリピン・セブ島に住むバジャウ族。実際に会いに行き、なんと漫画にまでしてしまったという大林さん。どんな経緯で、何に興味を持ち、そのような活動に至ったのかをうかがいます。

海で暮らす民族、バジャウ族に魅せられて

--本日はよろしくお願いします!バジャウ族に会いに行き、漫画にしたというお話を聞き、どういうことだろうと興味が湧き、今回、ぜひお話を聞かせてもらいたいと思い、ご連絡しました!
和歌山県紀の川市出身で、大学卒業と同時に漫画家を目指して、漫画やイラストを書いています。バジャウ族に限らず、「自然との距離が近い漫画」をテーマに描いていて、そこから派生して、海や山の中に暮らす少数民族や、動物、農業、狩猟、文化人類学、民俗学を題材にしています。

--では、まず、簡単にバジャウ族について教えてください。
バジャウ族というのは、もともと土地を持たない民族、海に漂う人々でした。スールー海周辺、マレーシア、インドネシア、フィリピンあたりの海を往来していました。彼らは、一生のほとんどの時間を手作りの船で暮らし、生活に必要なものは全て海の上という生活をしていました。

現在でも、世界全体で、約110万人(和歌山県民よりも少し多いですね!)がバジャウ族で、特に彼らの特徴として、約70mほどの距離を潜水できるという高い能力を持ち合わせています。

しかし、政府の意向などから、陸の上に強制移住をさせられ、今はその文化を少しずつ失いつつある希少な民族です。

そのため、フィリピンのバジャウ族は、近年は、船の上ではなく、基本的に手作りの高床式住居で生活をしています。

--潜水能力、水上生活、大変興味深いキーワードがたくさん出てきましたね。では、そんなバジャウ族との出会い、実際に行ってみようと思ったきっかけなどを聞かせてください。
そもそも漫画を書きはじめたのは、大学生になってからでした。もともと、漫画家になりたいというよりは、何かしら自己表現の一種として、作家のような活動をしたいと思っていたんですよね。

それまで、漫画を読むのは好きだったし、自分でも描いてみようと思い、大学入学後、漫画の書き方や題材を探したりしていました。

いろいろ描いているうちに、世の中には星のほど漫画がある。だったら自分が描く意味のある漫画を描かないと意味がないんじゃないかと思い、他の人が描かないような、自分だけの表現を探して、テーマを模索していくことになりました。

文化人類学と漫画

--そこで、バジャウ族との出会いが?
あ、そこで、出会ったのは、まだバジャウ族ではなく、若生先生という、大学の教授です(笑)

もともと、上橋なほこさんという小説家の方の作品を通して知った「文化人類学」という学問に興味を持っていました。

そこで、大学で出会った若生先生に指導してもらいながら、ひとつの民族について調べてみる事になり、どの民族について調べてみようかと悩んでいた時、以前ネットに流れてきて、とても印象残っていた、海に浮かぶ船の上で笑っている子供たちの写真の事を思い出しました。

そこに写っていた民族がバジャウ族だったというのが、バジャウ族を調べるきっかけでした。


もともと山や海などの自然を描きたいという想いはあったのですが、自然だけでは漫画にならないので、何かキャラクターを描かないといけない。そこで、限りなく自然と近い暮らしをしている人々の漫画を描いてみたらどうか?と思いました。

それがバジャウ族に繋がります。

一生のうちのほとんどを海の上で暮らすバジャウ族にとって海という存在は、僕らが普段の生活で想像する海とは、全く違うものとして感じたり、見えたりしているのではないかと思いました。その彼らの暮らしや文化、海との距離感を漫画に活かせたら面白いものになるんじゃないかと考えたんです。

そうして、バジャウ族について、民族誌や学会誌を調べてまとめる作業を半年ほど行いました。

しかし調べていくうちに、そこで暮らす人々の感情や日常の風景など、調べるだけでは分からない事がどんどんでてきて、頭を抱えるようになりました。


そんなある日、「実際にバジャウ族に会えたら解決するのになぁ」と悩んでいる僕の言葉を聞いた先生が言ったんです。
「それなら本当に、実際に現地に行ってみるしかないんじゃないか」と。


先生は、動物園のデザインのために、実際に動物が暮らす環境を視察するべく、日本各地や海外に足を運ぶ様なフットワークの人で、その人に言われると説得力が違いましたね(笑)

いざ、現地に訪問を試みるも……

--もともと、学問領域の延長で存在を知ったんですね!そこから、実際に現地に行ってみようと飛び出しちゃったわけですか。
いやいや、とんでもない、全然そんなことはなくて!(笑)僕は、それまで一人で海外になんて行ったことがなかったんですよ。修学旅行などで台湾には行ったことがあったんですが、自分で飛行機のチケットをとって、宿を確保して、みたいなことは未知数だったんです。

もちろん、親は大反対。心配した末に、海外は危ないとフィリピンで起きた事件の記事を見せてくる始末。そんなことを知ったら、怖いし、ビビりまくったし、どんどん億劫になっていました。現地に行くのをやめようかとも思いましたよ(笑)

しかしながら、やっぱり、当時、お世話になっている先生の存在も大きかったり、たまたま、現地に住んでいる日本人がいるという情報を知ったりと、やっぱり実際に会いに行ってみたいという気持ちが高まり、出発の2週間前にチケットを取りました。本当に怖かったな〜〜……。

--いざ、フィリピン・セブ島のバジャウ族を訪問というわけですね!長い道のりでしたね!
いや、それからも苦難しかなかったんですよ……(笑)

僕が、現地を訪れたのは、2017年6月、まだまだバジャウ族が住む地域は、観光地化されている場所ではなく、さらに治安もかなり悪かったんですよね。歩いていると銃を突きつけられることもあると聞きました。海外初心者がひとり、そんな地に乗り込んでいくわけですから、本当によく生きて帰ってこれたなという感じです……。

--ほとんど海外経験がないところから、いきなり飛躍的な挑戦だったんですね!まだまだ、詳細が気になるところではありますが、実際にどうやってバジャウ族の住む地域までたどり着いたのかは、次回お聞きしたいと思います!



この記事で初めてバジャウ族について知ったという方も多いのではないでしょうか。さらに、こんな着眼点を持って、海外に訪れている和歌山の人が身近にいることにとても驚きました。次回は、フィリピン・セブ島のバジャウ族を実際に訪れた様子や、活動について詳しくお聞きしていきます。

tatsuya_prf

大林龍矢さんってこんな人

1995年生まれ、和歌山県紀の川市出身
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最近は、農業や狩猟にも興味がある。
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投稿者プロフィール

東詩歩
東詩歩
京都府宇治市生まれ、和歌山県紀の川市出身。和歌山大学観光学部在学中。わっと!編集者兼ライター。インターン経験やプロジェクトを経て、学生生活の傍ら、フリーの編集者として活動する。シーシャが好き。積読家。
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東詩歩
東詩歩
京都府宇治市生まれ、和歌山県紀の川市出身。和歌山大学観光学部在学中。わっと!編集者兼ライター。インターン経験やプロジェクトを経て、学生生活の傍ら、フリーの編集者として活動する。シーシャが好き。積読家。